エスカミーラも何度も頭を打っている。意識不明になったのは10〜15回。脳震盪は7、8回。特に、2012年の事故は酷かった。彼は、イラク駐留米兵のためのイベントに出演。消防車の上にバイクで乗り上げたのだが、前輪のブレーキがスリップし、3メートルほど下の地面に叩きつけられた。その衝撃でヘルメットは壊れ、頭蓋骨を損傷。目の周りも黒いアザに包まれた。このような事故は、あまりにも多い。「あのときが一番怖かった。頭の中に焼けるような痛みを感じたんだ」とエスカミーラは話す。「何回かの酷い事故が、僕の生活を変えてしまった。以前のように読んだり、話したりできない。同時に複数のことができない。そんな自分に気づいたんだ」エスカミーラと他の選手たちは、頭の怪我についてよく話しているが、気がつくとヘルメットの話をしているという。ミラやエスカミーラは、ヘルメットが簡単に手に入らない時代からバイクに乗っていた。手に入ったとしても、おさがりでボロボロだった。でもそれはそれで満足していた。しかし現在は、スケート場やスキー場でも、子供たちは、みんなヘルメットを着用している。NSAA(National Ski Areas Association:国際スキー場協会) は、2014〜15年シーズンのスキー場調査で、9歳以下の児童の97%がヘルメットを着用していた、と報告している。18歳〜24歳は最も着用率が低く、70%という結果であったが、2002〜03年シーズンの18%からは大きく上昇している。さらに現在のアメリカでは、子供、若者がバイクやスケートボードを楽しむ場合、ヘルメットの着用を義務付けている州もある。ヘルメットは悲惨な事故から頭を守り、命を救う。この法律は間違っていない。しかし、アメリカン・フットボールが実証するように、どんなに頭部が保護されていても、脳は繊細で脆弱なままだ。ゼラチン状の塊が、頭蓋骨の中に浮かんでいる。それを卵の黄身とすれば、頭蓋骨は卵の殻に相当する。その卵を発泡スチロールやデュポン社のスーパー繊維で包みこんだとしても、中の卵黄は激しい衝撃、運動量、そして突然の方向転換などによって、大きく揺さぶられてしまう。あるヘルメット・メーカーの弁護士は、こう語っている。「ヘルメットの構造は、通常のXスポーツに適応しているし、まったく問題はない。しかし、スキーで10メートルの崖からジャンプしたり、BMXでの後方宙返りは、ヘルメットの構造とは関係なく、脳を危険に晒しているのではないか」エスカミーラは続ける。「1980年代の選手たちは凄い技をたくさん生み出した。それは、脳の損傷とスポーツが繋がるレベルだったし、そんな時代の始まりだった。そしてさらに今は、もっとクレイジーな要素が加わっている。障害の可能性はかなり大きくなっているんだ」
Coco Zurita on a ramp last fall. Photo by Aaron Nardi