家の近所に女子校がふたつあるんですが、今朝、おそらく最大の登校ピークと思われる時間帯に遭遇しました。200人、いや300人くらいの女子高生。生まれて初めて女子高生の波に呑まれました。彼女たちの頭上を歩いたら、クロコダイル・ダンディーのラストシーンみたいだなぁ、なんて思いました。
日々の生活の中で、私たちはたくさんの人たちとすれ違います。でもそんなすれ違った人たちの人生や生活を知る術なんて到底ありません。でも私も、あなたも、すれ違った人たちも、毎日を毎日過ごしています。これまでの毎日、そしてこれからの毎日。なにがあったのかな。なにが起るのかな。なにをしようとしているのかな。…気になりません?そんなすれ違った人たちにお話を聞いて参ります。
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ティーズ・カーリエ(てぃーず かーりえ)さん(38歳): スマートバイクメーカー社長
フーイェンモルヘン!!
フーイェンモルヘン(笑)。
朝早くからありがとうございます。前回のガブリエーネさんに続き、ティーズさんもヨーロッパからのお客様です。オランダからお越しいただきました。
はい。アムステルダムからです。
社長さんなんですよね! 自転車会社の社長さんでよろしいですか?
はい。〈VanMoof〉というブランドの自転車が中心なんですが、ただ自転車をつくって、ハイ、終わり、みたいな感じの会社ではありません。ムーヴメントというか、文化というか、日々のなかに根付いた自転車生活を考えています。
一度だけアムステルダムに行ったことがあるんですが、自転車の多さにびっくりしました。アムステルダム市民のみなさんにとって、自転車は欠かせないものですか?
そうですね。街の中心部自体が狭いので、みんな自転車を使います。東京ほど地下鉄も発達していませんし、最も移動しやすい乗り物ですからね。専用レーンもあるんです。生活の利便性もあがりますし、環境にもいいから、街、市民、行政、みんながWin-Winの関係で成り立っているんです。山手線内くらいでしたら、自転車で移動しますよ。
わ! 山手線だなんて! TOKYOマスターですね。もう何回も来日してるんですか?
はい。ビジネスを進めている街ですから(笑)。
目が光りましたね(笑)。東京で何を狙っているんですか?
電動アシスト付き次世代スマートバイクの〈Electrified X〉です。
次世代! スマート! エックス! なんかすごそうですね! これをなぜ東京で売り出そうと思ったんですか?
例えば今までだったら、「ちょっと上野行こう」とか「浅草行ってきます」といっても、自転車だと厳しかったと思うんです。
本当に東京の地理にお詳しい(笑)。
でも、この自転車ならそれが可能になります。電動で、モーターも高性能ですし、長距離可能なバッテリーも搭載。これまでの移動の概念を変えると思いますよ。楽チンですよ〜。
あらー、商売上手ですねー。でもアムステルダムで見た自転車は、みんなゴツゴツしていて、重たそうで、正直いって、古いタイプの自転車ばかりでしたよ。
そうなんです。これまでのオランダには、そんな感じの自転車しかありませんでした。壊れやすいし、ワイヤーも多いし、デザインもイケてない。どう考えても、私のお祖父さんの時代の自転車のまんまだったんですね。その辺も変えたかったんです。
なるほどー。
それに比べると、日本の電動〈ママチャリ〉は進んでますよね。
ママチャリって言葉も知ってるんですか(笑)。
はい、もちろんです(笑)。ビジネスしていますから(笑)。
では、このなんちゃらエックスは、アムステルダムでも画期的な存在で、大人気なんですか?
はい、おかげさまで。でも〈Xタイプ〉は、まだアムステルダムでは発売していません。これは日本用につくりました。
なんで日本用をつくったのですか?
まず日本が好きだからです。そしてこのコンセプトが日本、そして東京に合うのではないかとずっと考えていました。日本はなんでもクオリティが高いです。地下鉄も、ホテルの部屋も、食べ物も、すべて繊細で素晴らしい。デザインも素晴らしい。初来日したときは本当にびっくりしました。
ありがとうございます。
But……
But??
これだけクオリティが高いものだらけなのに、自転車…、その〜、正直いいますと、普通のママチャリのクオリティは低かった。
はい。
ダサかった。
そっすねー(笑)。
なんでママチャリだけ、こんなにダサいのかわからなかったんです。そこで血が騒ぎました。チャレンジしたくなりました。日本で新しい自転車をつくろうと考えたんです。そこで8年前から毎年東京に来て調査を始めたんです。
では満を持して、日本に乗り込んできたんですね。
はい(笑)。
わかりました。では、やっつけられる前に、色々とお訊きします。
はい、どうぞ(笑)。
ご出身もアムステルダムですか?
いいえ。とっても小さい村の出身です。ロヘム(Lochem)というところです。母親は畑仕事をやっていて、父親は音楽ビジネスをやっていました。
音楽ビジネス??
はい。イベントを主催していたんです。ウッドストックよりも前から、夏にオランダで野外フェスをやっていたんですよ。ヒッピーのためのフェスです。
ヒッピー!! ティーズさん家族もヒッピーだったんですか?
はい。農業と音楽ですから、典型的なヒッピー家族です(笑)。今みたいな音楽フェスじゃありませんでしたから、家族や知り合いでステージをつくったり、機材をかき集めたり、小屋をつくったり。夏は忙しかったですね。
どんなアーティストが出演していましたか?
たくさん、たくさん出ていました。私は小さかったので覚えていないのですが、フランク・ザッパ、イギー・ポップとかですね。
すごい! 超本格的じゃないですか! すいません、勝手に村のロックコンサートみたいなのを想像していました。
ハハハ。当時を代表するバンドがたくさん出ていましたよ。〈Pop Meeting Lochem〉というフェスです。その後〈Lochem Festival〉になりました。
ちなみにどんな生活をしていたんですか? ヒッピーファミリーライフを教えてください。
シンプルで質素な生活でした。テレビもあまり観ないし、無駄遣いもしちゃいけません。あとフェスの動員も影響していましたね。
どういうことですか?
例えば、ある年のフェスは雨が酷くて動員が厳しかったんです。そうなると、収入が少なくなる。来年の夏までは切り詰めていかなくてはならない。なので、うちの畑で採れた野菜ばかり食べなくてはなりません(笑)。
アハハ!
逆に動員があった年は、生活も潤ってましたよ。
「こんなヒッピー生活は嫌だ!」なんて思っていませんでしたか?
いいえ(笑)。子供でしたから、楽しかったですよ。両親もいつも家にいるわけですから、ずっと家族一緒で、愛情も強く感じていました。物欲とかもなかったし、もともと何もなかったわけですから、「失ったらどうしよう?」なんて心配もないわけです。それは今の生活にも影響していますね。両親には感謝しています。
子供の頃から、自転車に興味があったんですか?
自転車というより、モノをつくるのが大好きでした。逆に読み書きが苦手でした。ディスレクシアだったんです。でもつくることは本当に好きでした。
何をつくっていたんですか?
15歳のとき車をつくりましたよ。
ええっ! 車! それは乗れる車ですか?
もちろんです(笑)。2年かけて、ゼロからつくりました。一応レーシングカーです。そんなにかっこよくはなかったですが、まぁまぁ速かったですよ。
女の子とか乗せちゃったり?
はい(笑)。今もそうですが、車があるとモテますよ(笑)。本当はダメなんですけど、車に乗って学校に行ってました。
本当は女の子にモテたいから車をつくったんじゃないですか?
アハハ!! それはありません。とにかく達成感を味わうことが好きだったんです。それは今も同じです。
ちなみにオランダの学校制度ってどういう風になっているんですか? 日本でいう小学校・中学校・高校みたいな感じですか?
日本でいう高校みたいなものがありません。5歳から12歳までが初等教育で、そのあと12歳から19歳まで中等教育になりますが、既にここで進路別にわかれるんです。一般教育か職業教育の学校に行きます。
12歳で進路を決めなくてはならないんですか?
そんな感じですね。私は技術系の方に進みました。
やはり将来は、モノをつくる仕事がしたい、起業したいと考えていたんですか?
モノづくりは考えていましたが、起業なんてまったく考えていませんでした。学校を卒業して、オーストラリアで1年ブラブラしてから、大きな風力発電機をつくる会社に就職したんです。
では、どうして自転車会社を始めたのですか?
自転車がスタートではありません。父のフェスティバルに関係したところからスタートしました。
フムフム。
父のフェスティバルは、どんどん成長して、お客さんもたくさん来るようになったんです。イベント業界も好調な時代だったんですね。ただ、インフラっていう部分では、まだまだ整っていなかったんです。例えば、父のイベントは、5日間で6万人くらいが動員する規模にまでなっていました。
スゴイ!!
でも父は、イベント期間中、毎晩毎晩、手にした現金を大きな袋に入れて、車で家まで運んでいたんです。
イベントの売り上げをですか!?
そうです。入場料からビールの売り上げまで、ゴミ袋に詰め込んで、何往復もしていたんです。
マジですか? それっていつの話ですか?
2001年ですね。
結構、最近の話じゃないですか(笑)!
はい(笑)。ステージも豪華、PAも最新型になっているのに、お金の部分だけ、めちゃくちゃオールドスタイルだったんです。そんな父の状況を見て、「なんとかなんねぇのかなぁ〜」って、兄と一緒になって考えはじめたんです。
で、なにかをつくったんですか?
はい。〈現金要らーずマシーン〉をつくりました。まず観客は、自分のキャッシュカードやクレジットカードで、フェスでしか使えないコインみたいな物を買うんです。そのコインで全て決済できるんです。要するに、このマシーンでお金から収益までを管理したわけです。
スゲエ! 14歳で車、20代で〈現金要らーずマシーン〉ですか! 導入して、お父さんは大喜びしましたか?
はい、もちろん。他の人たちも喜んでくれました。
他の人たちとは?
このシステムは、ヨーロッパ中に広まって、そのあと米国、香港、台湾などでも使われています。これがきっかけになって独立しました。今もこの会社はありますよ。
大成功じゃないですか! じゃあ、このシステムで儲けたお金を使って、今度は自転車に乗り出したと?
まさしくそうです(笑)。
でもやっぱ、なんで自転車なのかが気になります。〈現金要らーずマシーン〉と自転車では、かなりかけ離れていますよね?
もちろん自転車は好きですが、それよりもメカに興味があったんです。メカを通じて、社会だったり、人々の生活の課題解決につながるような部分がメインなんです。
そのメカ具合が本当にすごいですよね。盗まれたら、スマホで探せるんですよね? なんでそんなアイデアが生まれたんですか?
みなさん、自転車が盗まれたらどうしよう? って思いますよね。で、盗まれたら、「どうせまた盗まれるから安いヤツ買おう」って考える方も多いと思います。でもそれは違うと思うんです。いいものを一生使えるようにしたいんです。ですから、まず自転車泥棒のことを考えました。
具体的に盗まれたらどうなるんですか?
アプリがあるんです。盗まれたら本社に連絡が行きます。そしてバイクハンターが出動します。
バイクハンター!!
はい。フルタイムのバイクハンターです。自転車があるところまで行きます。私もたまにはやりますよ。
具体的な捕物帳例がありましたら教えてください。
パリで盗まれた自転車が、モロッコのカサブランカにあったり。
スゲエ(笑)。
ブリュッセルにあったり。
ワールドワイドですねぇ。バイクハンター出動ですね!
はい。倉庫みたいなところで自転車を発見しました。他にも20台以上の自転車、そしてテレビ、冷蔵庫など、たくさんのモノがありましたね。もちろん警察も呼びましたよ。海外だと毎週ハンターは出動しています。
日本は少ないと思いますよ。そう願ってます! では日本で大成功したあとはどうしますか? 今後の展望を教えてください。
うーん、わからないです(笑)。一歩一歩進んでいくだけです。フェスでつくったマシーンに比べると、VanMoofでは、まだまだやらなくてはならないことがたくさんあります。ひとつひとつクリアしていきたいです。
ちなみに日本のバイクハンターは、今何人いるんですか?
まだひとりなんです(笑)。どんどん増やしますよ!
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