先日VICE Japan編集部に小僧が入りました。まさしく「DBK(丁稚奉公)」という言葉がぴったりの23歳です。そんな小僧、好きな音楽は『ニュー・ウェイヴ(NEW WAVE)』だという。JOY DIVISIONとかTHE SLITSとかTHE POP GROUPとかTHE CUREとかがお気に入り。ルックス的にはECHO&THE BUNNYMENのイアン・マッカロク(Ian McCulloch)がベストだそうで、眉間に皺を寄せて、真剣にやっている感じがツボらしいです。ちなみにDEVOは、見た目がふざけているのでスルー。ピコピコもあんまり好きじゃないそうで、CABARET VOLTAIREに至っては、「キャバレー・ボルト・クラブ」って言ってました。「オーサム・シティー・クラブ」みたいですね。
しかしやっぱ疑問。なんで23歳の丁稚野郎が、こんな30年以上も前の音楽を聴けるんだろ?高校時代の俺、プレスリーもTHE BEACH BOYSもボブ・ディランもTHE BEATLESもツェッペリンも聴けなかったスよ。JUDAS PRIESTとあぶらだことBIG AUDIO DYNAMITEだったスよ。ま、『宝島』とか『フールズメイト』あたりから、「パンク以前の音楽はダサい」って洗脳されていたからなのだけれど、いくらニュー・ウェイヴがパンク以降だからって、古い音楽には間違いないわけでして。したら小僧はいうのです。「音楽的にダサいと思ったことはまったくない」。
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ああ、圧倒的に違う。プレスリーはダサいけど、エコバニはダサくない。さらに私たち世代は、「ニュー・ウェイヴがダサい化」した瞬間に立会いましたが、小僧にとっては、ニュー・ウェイヴそのものがそんな対象ではない。そして、30年前に「新しい波」だった音楽は、その名前のまんま、ざっぱ〜ん、ざっぱ〜ん、と来てしまったと。「新しい波」なんて、その後の音楽シーンを考えたら山ほどあるじゃないですか。その時々によって、アップデートされるのが普通でしょ。なのに、ニュー・ウェイヴはニュー・ウェイヴのまんま。お笑い界のニュー・ウェイヴは、ツービート→シティボーイズ→陣内智則なんて変遷もありますが、音楽にはこれが当てはまらん。90年代に「ニュー・ウェイヴ・オブ・ニュー・ウェイヴ」(メンズウェアー!S*M*A*S*H!ジーズ・アニマル・メ〜ン!)なんて仕掛けがありましたが、これもざっぱ〜ん、ざっぱ〜ん、ありき。なぜこのような状況になったんでしょう。そこには二つポイントがあるのでは。
・音楽に対する真摯な姿勢と偉大なる勘違いがミックスされた歴史上稀に見る「ロックの解体」。
・「曖昧さ」に甘えて「さらなる曖昧さ」を生んだメディアとマーケットの存在。
これらを踏まえながら、まずはニュー・ウェイヴの誕生背景を振り返ります。
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まずは、パンクありき。1970年代後半に大爆発したパンク・ムーヴメントは、「旧世代のロック」、そして「メインストリームのポップス」を否定するには十分なインパクトがありました。お行儀の良いロック、スターになるためのロックなんてウンコたれー。キッズたちはギターを手にし、奇抜なファッションに身を包み、自らアンチを振りかざし始めるのです。ただ音楽的に考えてみると、完全なる原点回帰。シンプルで荒々しいロックンロール・スタイル。テクニック志向のハードロックやプログレなんかより、よっぽど「オールド・ウェイヴ」な音だったのです。さらにムーヴメントによって、各メジャー・レコード会社は、こぞってパンク・バンドと契約。特にイギリスのシーンでは、このような現象が顕著に起こり、反商業主義を掲げていた彼らですら、従来の市場構造に飲み込まれていったのです。こうしてワイドショーでも取り上げられるのが当たり前になったパンクは、あっという間に消費されて「もう死んだ」呼ばわりに。もちろん真摯に活動を続けるリアルパンクス、そしてもっとストイックに進化したハードコア勢はおりましたが、「アンチ旧世代ロック」からの旨みをパンクから知ったマーケットやメディアは、「パンクの次の商品」を探し始める…というか造り出します。「死んだパンク」に対する新しい波…ニュー・ウェイヴ登場。
ニュー・ウェイヴという言葉は、1977年にイギリスの音楽系新聞『Melody Maker』紙によって使われたのが最初とのこと。ホントかウソかはわかりませんが、だとしたらメディア主導の大成功例ですね。ちなみにヘヴィ・メタルのいちムーヴメントに「ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM)」ってのがありますが、これもイギリスの『Sounds』誌が造ったと。付けた人は、孫に自慢&冥土の土産のダブルパンチですね。そんなメディアが生んだニュー・ウェイヴですけど、実際に現場も潤っておりました。パンクによって、これまでのロックの既成概念や価値観は確実に変わっていたのですから。パンク以前、演奏するってのはうまいのが当たり前でした。「目指せプロフェッショナル!」「抜群のテクニックでモテモテ!」ってね。でもそれらは、パンクによって見事に粉々にされ、誰もが楽器を持つことができるように。さらに、「レコード出してくれないなら自分で出す!」「載っけてくれないなら雑誌創る!」なんて、自由で、勝手で、己の欲求に正直なアーティストやバンド、そしてファンジンやインディペンデント・レーベルが、わんさかと登場したのです。このことは、長い音楽史の中でもかなり重要なポイントだと思いますよ。もしパンクが無かったら、それこそ大衆音楽は今もソファーにどかっと座って、威張りまくっていたに違いありません。
そんなパンクの「ぶっ壊せ!」「なんでもやっちゃえ!」的な精神と、真摯な音楽性の探求が見事に繋がり、どんどん歩き始めた「パンクのそのあと」こそがニュー・ウェイヴ。だからある意味ここからが本当のスタートだったのかもしれませんね。ただ、如何せん、「なんでもやっちゃえ!」の「なんでも」が、とにかく多かった。それぞれのコンセプトやら欲望やらは千差万別、これまでの箍が外れたわけですからねぇ、もう〜いろんな音楽がジョバジョバ〜って溢れ始めちゃったんです。だからニュー・ウェイヴは、チョー便利な言葉。パンク以降の「新しくてわけわかんない音楽」は、みんなニュー・ウェイヴにドボンチョされたんです。
では、どんだけニュー・ウェイヴの中身がてんこ盛りなのか?こんなんです。
・ノー・ウェイヴ(No Wave)
・ポストパンク(Post Punk)
・ネオ・サイケデリック(Neo Psychedelic)
・ゴシック・ロック(Gothic Rock )/ポジティヴ・パンク(Positive Punk )
・インダストリアル(Industrial)/ノイズ(Noise)
・エレクトロ・ポップ(Electropop)/シンセポップ(Synth Pop)
・ニュー・ロマンティック(New Romantic)
・ブリテッィシュ・レゲエ(British Reggae)/スカ(Ska)/ダブ(Dub)
・エスニック(Ethnic)/ファンカ・ラティーナ(Funka Latina)
・ブルー・アイド・ソウル(Blue-Eyed Soul)
・パブ・ロック(Pub Rock)
・パワー・ポップ(Power Pop)
・ネオ・ロカビリー(Neo Rockabilly)
・ネオ・モッズ(Neo Mods)
・ネオ・アコーステッィク(Neo Acoustic)/ギター・ポップ(Guiter Pop)
・カレッジ・ロック(College Rock)/ジャングル・ポップ(Jangle Pop)/ペイズリー・アンダーグラウンド(Paisley Underground)
これ全部ニュー・ウェイヴの中身。さらにまだありそう。これらがですね、専門店以外の中古レコード屋さんでは「ニュー・ウェイヴ」っていうただひとつのエサ箱に収められていたんです。例えば、アメリカのど田舎のモールとかに入ってるレコ屋だったら、もう何メートルも「NEW WAVE」が続くという。それに「ROCK」コーナーに入れるより、これがあればちょっとイケてるレコ屋になれるし、EAGLESとかFLEETWOOD MACとかと差別化できる。国内外問わず、当時のレコ屋主人にとってニュー・ウェイヴは、ワケのわからんムーヴメントであると同時に、間違いなく便利でナウなジャンルだったんです。そしてDIGり側としても、「ニュー・ウェイヴ」のエサ箱がある店は狙い目でした。ドサっと入れられてるだけだから、たくさんのお宝にも巡り会えたんです、ハイ。
そしてお店同様、メディアも戸惑ったと。インターネットも無い時代ですから、こちらもたくさんの輩が、ニュー・ウェイヴという大鍋に放り込まれてしまった。寄せ鍋?ちゃんこ鍋?海鮮もお肉も入ったミックス鍋?四川火鍋みたいな仕切りも無かったから、これまた曖昧に「今夜は寄せ鍋よー」って言われても「具材はなんだよ!」「何スープだよ!」って問うこともなかった。ニュー・ウェイヴは、何の疑問も無くグツグツと煮込まれ、胃の中に吸い込まれていったのでした。
結局80年代後半に入ると、ニュー・ウェイヴは、もっとお店にとってクールな言葉「オルタネイティヴ」に取って代われてダサい化するのですが、音楽的な系譜から見れば、現在まで断ち切られることなく続いています。だったら曖昧にしないで、もうちょい覗いてみましょうと。次回から「ニュー・ウェイヴ」のエサ箱に、細かい仕切り板を加えていく作業です。「ニュー・ウェイヴのススメ」まもなくスタートです。